2015年1月アーカイブ

北京の書店から見る日本



年々肌の衰えを感じる一方、新年を迎えて心機一転の盛りだくさんスケジュールを組むもすぐ力尽きるパターンは相変わらずの吉井忍です。何者かと思う方がほとんどでしょう。北京に住み、主に中国のメディア向けに文章を書いて暮らしている日本人フリーランスライターです。よろしくお願いします。

皆さん、中国の作家と言えば誰を思い浮かべますか。ノーベル文学賞を受賞した莫言、『阿Q正伝』の魯迅、『活きる』の余華などなど。

では、今の中国で売れている日本人作家の作品にはどんなものがあるでしょうか。百聞は一見に如かず、まずは北京の本屋さんを覗いてみましょう。書店と言えば新華書店という時代もありましたが、今は民営店も頑張っています。海外カルチャー系、社会派系、文学重視、女性向けなど特色を出しており、本屋ごとに売れ筋は違います。
 

xinhua book store.jpg 近所の新華書店。品揃えはイマイチかな……

きょうは著名な民営書店『単向空間』という書店に参りました。雑誌の編集、ライター、または作家などの13人が一人あたり5万元(約日本円95万円)を出して作った書店で、現在は北京に3店舗あります。文学、社会、アート方面の書籍・雑誌がほどよく取り揃えられており、カフェを併設し、作者を招いたイベントを行うなど、書店を兼ねた社交の場を目指しているようです。

book store 1.jpg『単向空間』の入り口

 

book store 2.jpg 単向空間』の店内。一番手前の黒い棚が日本文学用。

 店内には「欧米文学」と並んで「日本文学」の専用本棚があります。店員さんにお話を伺いました。一番の人気はやはり村上春樹。その次に『失楽園』の渡辺淳一。彼が亡くなった時は中国でもかなり報道がありました。『窓際のトットちゃん』(黒柳徹子著)は翻訳本が出て10年以上経ちますが、未だに総合ランキング上位10位に入る人気を誇ります。日本と違って児童書に区分けされており、教育部が小学1〜2年生の課外読書向け推薦図書のひとつとして取り上げています。

murakami.jpg村上春樹シリーズ

また、数年前から中国では若者を中心に推理小説がブームで、特に東野圭吾は「2カ月に1冊のペースで翻訳版が出ている」ほどの人気。その一方で川端康成、三島由紀夫などの純文学も安定した売れ筋とのこと。

higashino.jpg東野圭吾シリーズ
 

ライフスタイル系も根強い人気。「Café&Meal MUJI」のレシピ本ほか、『断捨離』(やましたひでこ著)、茶道エッセイ『日日是好日』(森下典子著)などなど。アート系では『東京日記』(荒木経惟著)や『犬の時間』(森山大道著)の翻訳本が置かれていました。

 

lifestyle.jpgライフスタイル系は平積みが多い

 日本に関しては軽めの内容が売れ筋のようです。余談ですが、あからさまに嫌日を謳う本は見当たりません。コーヒーの香り漂う店内に血気盛んな本は似合わないのかもしれません。

私がきょう買ったのは、香港城市大学・郭位学長の『核電とスモッグと君』(北京大学出版社、2014年9月、36元)。中国では沿海部に200の原子力発電所建設が進められていると聞きますが、新聞などにはあまり関連する情報がなく、珍しいと思って手に取りました。副題に「福島の放射能事故からエネルギー、環境保全および工業の安全性を考える」とあります。ざっと読んだ限りでは、信頼度を高めた原子力発電を推進する文脈のようです。

ちなみに、コーヒーっていくらすると思われますか。スタバで30元前後(約560日本円)、おしゃれカフェでは10元ほと高くなります。単行本が約40元、雑誌が25元前後、タブロイド版の地元紙が1元であることを考えると、コーヒーは割高ですね。

この時期、中国に住んでよかったと思うことは、旧正月があることです。元日に立てた目標が脆く崩れ去ったとしても、中国ではまだ「旧年中」。その後に迎える旧暦の正月(今年は2月19日)で、爆竹の音と共にうやむやに……ではなく、「リセット」すればよいのです。新たにすばらしい目標を打ち立てて頑張りたいと思います。

 

執筆者の中国語エッセイ集『四季便当』http://t.cn/RZpmuvh
執筆者の微博(中国版ツイッター)http://weibo.com/u/1927463421



美容文藝誌 髪とアタシ



『拡張するファッション』

この本に出会ったのは代々木上原にある、とある古本屋だった。本を読む時のクセなのか、必ず最初に奥付を目にする。

 大好きな美容冊子、花椿の元編集者の方が書いた本だった。

 それから三往復ぐらい、最初から最後まで本をめくったあと、吸い込まれるように文章と写真にのめり込んでいった。ファッションはどこまでもファジーで、解釈の余白がある、現代アートのようなもの。肌感覚で今まで感じていた「ようなもの」が、見事に言語化されてヴィジュアル化された。自宅で珈琲をすすりながら、いきなり来たその感動を今でもしっかり覚えている。

 美容文藝誌 髪とアタシの第二刊は「拡張する美容師」。

林央子さんの背中を追うように、ぼくも拡張された一人として雑誌をつくろうと思ったのです。

いつからか「サラリーマン美容師」という言葉を耳にするようになって、この胸くそ悪い言葉にアンチテーゼを覚えていた。儲かろうと思った瞬間に、ものづくりの職人としての気概を失った瞬間に、美容師という職業はいとも簡単に陳腐化してしまう。

 美容師免許を取得するため「だけ」の美容学校の授業に、入学後、筆者はすぐに違和感を覚えた。現場に出たら到底役にも立たないようなことを徹底的に教え込まれ、国家試験に則った課題をクリアしていく。当然資格を取るため「だけ」の内容であるから、いざ21歳で美容師になったときの学校と社会とのイメージの乖離は起きる。就職率90%以上でも、1年以上の離職率は相当高いものだと。

 イメージしていた美容師像とはかけ離れている現実に、多くの友人美容師が離脱してきた。

理想と現実のギャップを埋め合わせるための努力は報われないことも多い。

しかし、その理想主義こそ失ってはいけない未来への架け橋だと思う。



 美容師である以上は、髪を切ること、お客を喜ばせることに一心になって働くものだと思うが、いつの日か「それだけ」の美容師になっていることがある(筆者もその経験を何度もしてきた)。そう感じたときに、どう自分を拡張していくか。美容×◯◯なのか、美容×△△なのか、はたまた☆☆なのか。

今は手先から先だけで生き残れる美容師像は、とっくに通り過ぎた。

そのことをなんとなく感じながら、でもどうすればよいのか?のスパイラルにはまっている。



 均一化されてきた美容師像に苛立ちを覚え、ビヨウカイの外側から一石投じたい。

髪とアタシはごく少数の美意識を持った美容師や、その周辺(マージナル)にいるモノヅクリの人たちに支えられて活動を続けている。美容師に対する今あるスタンダードなイメージを変えたい。

ファッションと同じように、美容も髪も拡張するタイミングが到来したと、確信している。

 

美容文藝誌 髪とアタシ
発行人/編集長 ミネシンゴ



美容文藝誌 髪とアタシ 第二刊

石巻、京都、神戸、沖縄、東京、NY。あらゆるところで拡張し始めた、新しい美容師の生き方を提示する。
[2014年9月/B5/76頁/¥900] 特集=拡張する美容師  発行=髪とアタシ編集部

アナーキスト市長誕生



もう二度と政党には投票しないで下さい。
なぜなら、政党は経済的強者の味方であり、大衆の生産力を収奪する者の味方だからです。
皆が、だれもが、芸術を、つまりあなたたち自身を選ぶのです。
あなたたち自身が国家なのです。
あなたたちの所有している権力を自己決定する権利に基づいて行使しなさい。
あなたたち自身を統治しなさい。

ーヨーゼフ・ボイスー

これは70年のノルトライン=ヴェストファーレン州議会選挙でのヨーゼフ・ボイスたちの呼びかけです。ボイスは個人を自由と成熟に導く為に〈こうすれば政党支配は克服できる〉というタイトルのビニール袋をストリートアクションとして街にばら撒いた。街の人たちの関心を掻き立て大いに議論した。ボイスは自らの行動を〈社会彫刻〉と概念化して芸術と社会活動の壁を取り払った。


2014年12月14日に第47回衆議院総選挙が行われた。自民党圧勝を望まない人達にとっては震災以降の不穏な動きを止める最後かもしれない好機。の筈だが私の気持ちは冷めていた。誰もが結果は何となく分かっていた。震災以降の選挙はいつも何かが大きく変わりそうな期待はあったけどいつも肩すかしを喰らうような結果だった。それでも今回の選挙もそれぞれが一抹の希望を心の奥底には抱いていたと思う。そんな気持ちで懸命にさまざまな選挙運動をする人、もう選挙では何も変わらないと新たな活動に力を入れる人、考えた末に一票を投じる人、さまざまな想いで選挙期間を過ごしたと思う。でも個人的には震災後一番面白くない選挙だった。そんな想いの中で因島に住む私は期日前投票を済ませた。

選挙当日は東京の「路地と人」で何故か2日間で20時間ライブペイントを生演奏と同時進行でするというバカなことをしていた。黙々と祈るような気持ちで部屋の壁、床、天井に描いた巨大なひとりの人間「原子の巨人」を描ききった。その巨人の身体の中には自然と社会のあらゆる現象が混然一体となって存在していた。ひとりの人間の中には世界の全てがある。それならば個人が変化すれば社会も変えることが出来るのではと描きあげた時に思った。この催しは「アナーキストの楽しい社会研究」の出版記念イベントとして行われた。この本は東京から因島に移住して色々な事を調べたり体験したりする事で村上大樹という個人が変化していく過程を書いた本です。でも個人が変化しただけでは社会は何も変わりません。しかし大きく変えることは出来なくても小さく少しずつなら私にも社会に対して出来ることがあるのではないかと「原子の巨人」を描きながら考えていた。そんな中、選挙の結果は予想どおり自民党圧勝というつまらないものだった。

最近は本当に選挙に興味がなくなっている。私は単純な人間なので選挙に友達が出ないのが一番乗り気になれない原因だと思う。やはり言葉を交わしたり身体を触れたりした事がない人に投票したって面白くない。今年の4月に尾道市の市長選挙がある。そうだ、どうせ友達は誰も出ないからこの選挙に私、村上大樹が立候補するという暴挙を思いついた。よし「アナーキスト市長」になってやろう。あ、そうだ、しまった、今年は4月〜5月にイギリスで展覧会が決まっていて立候補は難しい。しかし欲張りな私は両方を実行できるアイデアを思いついた。

アーキグラムという1961〜70年代初頭にかけ活躍したイギリスの前衛建築家集団がいる。彼らは経済を回していく為に建て続けられる建築産業に疑問を感じ、大好きな建築物を実際に建てるのではなく紙の上にドローイングした絵を「建築作品」として次々に発表した。足のついた巨大な移動都市「ウォーキング・シティ」など紙の上でなければ実現できないような奇抜でユーモアのある「建築作品」は本当に素晴らしい。そこで私もアーキグラムに見習って紙の上で立候補することにした。「村上大樹・尾道市長選挙立候補・当選・その後の街づくり」という作品をアーキグラムを産んだ本国イギリスで発表する事にします。美しい一編の詩のようなマニュフェスト、現実可能な街づくりの構想を絵に落とし込む。作品の中で思考の中で精神的アナーキスト市長が誕生するのです。私はチイサイカイシャ基地というフリースペースを因島で運営しています。そこに最近、商工会議所から何か街づくりの知恵を貸して欲しいとの要請がありました。新聞社の方にも現尾道市長がチイサイカイシャ基地の存在を知って何か支援したいと言っていたと聞きました。作品の中でアナーキスト市長になった私と現実の市長が対面する日も近い。今年はこの街づくりの構想を色んな場所で発表したい。現実の市長にも目一杯この構想をプレゼンしよう。大きな社会は完全に腐っていて変える事は難しい。しかし全国各地で小さいけれど新しい動きが始まっている。ここ尾道もそんな新しく変化して面白いコミニュティを形成している街です。その変化の波を瀬戸の島々とともに更に深いものにしたい。私が2年後に本当に立候補したら、尾道市民の皆さん清き一票を村上大樹にお願いします。

そんな私の書いた本『アナーキストの楽しい社会研究』の中で、10章に渡って様々なフィールドワークを記しました。某ウェブマガジンで連載中止となった問題作の書籍化。ウンコから考える生命論、なんちゃって自給自足、野犬の群れの小さな社会、家賃0円を改装費も0円で作る実験、福島の内側と外側など、村上大樹が震災後の社会や場所と生き方について楽しく真面目に考えた究極のデタラメ研究書です。どうぞよろしくお願いします。

村上大樹 



アナーキストの楽しい社会研究

目次:1 野犬の群れの小さな社会/2 震災直後の東京で/3 福島の内側と外側/4 ウンコから考える生命論/5 なんちゃって自給自足/6 ゴミから法律の外側へ/7 ゾンビ生物学/8 ドラえもんの空き地にある空洞/9 家賃0円、改装費も0円の実験/10 「アーユーウィズミーグリーン」/
[2014年12月/四六判/118頁/¥1,500+120] 著=村上 大樹 発行=チイサイカイシャ

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