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痒いところに手が届くカオスな音楽雑誌、再始動のお知らせ
「国境知らずの音楽雑誌Oar」二代目代表 並木麻衣

「音楽雑誌を創ったんです。プロもアマも、国境もジャンルも超えた雑誌。良かったら1冊買ってやってください」。
そう言って「彼」が差し出してきたA4版の冊子を500円で購入したのは、うららかな陽気に満ちた春の大学の、昼休みの時間だったような気がする。差し出された冊子の表紙では、小柄な爺さんがインドの太鼓に両手をかけて、とぼけたような味のある表情を見せていた。
雑誌を受け取り、帰りの電車の中で開いて、私は衝撃を受けた。なんだ、この「読み手に優しくない雑誌」は! 50頁余りの白黒刷り、書体もレイアウトもゴチャゴチャな中に、情報の生絞りを高温加熱して煮えたぎらせたような、火傷しそうな温度の記事が並んでいた。どれ一つとして、読者に媚びる原稿は無かった。目次にはコンテンツの一貫性すら無かった。しかし、これだけは全ての頁において一貫していたーー「音楽の出自を差別せず、とにかく彼らを白日の下に晒してやりたい」という情熱の存在である。

1頁開けばその存在が希有であることが分かるこの音楽雑誌を創ったのは、当時東京郊外の大学でウルドゥー語(パキスタンの言語である)を学んでいた野上郁哉(のがみふみや)編集長だった。彼は自腹で旅費を用意して国内外を取材し、バイト代を貯めて印刷費を捻り出し、食費を削って雑誌の営業活動に日々勤しんでいた。
いつ会っても赤貧の彼に、「どうして印刷して雑誌にするの? ネットに記事を上げれば手軽じゃない、音楽も再生できるし」と問うたことがある(こんなことを言うと模索舎さんや常連さんたちに石を投げられてしまいそうであるが、当時の私はとある業界で少々話題のブロガー、しかも怖いもの知らずのイノシシ学生だったので許して欲しい)。彼の答えは、「いや、雑誌がいいんです」。
今、彼が創ってきた雑誌を開いて記事に触れれば、彼が頑なに「雑誌」にこだわった理由が痛いほど分かる。記事の一つ一つが色褪せることなく、紙の上でどっしりと存在感を放っているからだ。彼らはネット上の記事のように消費され流されていくことも無く、私の部屋の本棚の中で「再発掘」されるのをじっと待っている。そしてひとたび開かれれば、読み手の好奇心に再び火を付けてくれるのであった。
この世に送り出されて6年が経過しても、そういった彼らの存在感は変わらない。彼らを取りまとめた創刊者が、20代前半、志も半ばにして早世しても、そして読み手が喪失の痛みに堪え兼ねて幾度となく涙を流しても、彼らの温度が下がることはなかった。

001号でインド・ネパール特集、002号でパキスタン特集、003号でチベット特集を組んだ前編集長・野上氏が轢き逃げにより亡くなったのは、004号の目玉に据えたイラン・スーフィズム特集の取材を目指し、ペルシャ語を自身に仕込みつつ旅費捻出のために精を出していた、居酒屋でのアルバイトの帰り道のことだった。
悔しかったに違いない。何しろ雑誌のナンバリングをわざわざ3桁に設定していたくらい、まだまだ世の中に突きつけたい音楽の話があったはずなのだ。
周囲の人間も、それは大変に悔しかった。
悔し過ぎて集い、涙し、目論み、憤り、ぶつかり合って、遂に発行してしまった。野上氏が心の底から刊行を熱望していた、そして私達が読みたいと切望していた「国境知らずの音楽雑誌Oar 004号 イラン・スーフィズム特集」を、である。刊行された時には、野上氏の急逝からちょうど3年が経っていた。

004号は、発行から1ヶ月を待たずして印刷部数の約半分が売れてしまった。「大阪の基準で言ってもこの充実ぶりとクオリティで500円は安すぎる」「想像以上の濃さに仙台で小躍りしています」「インドで働く娘に送りたい」等々、数々の反響を呼びながら日本国内だけでなく海外へも旅立っている。
発送のために一冊一冊を包みながら、野上氏が雑誌にこだわったもう一つの理由をこの身で実感する。手作りの冊子に封筒を着せてやり、誰かの元へと送り出し、受取人から喜びの声が返って来る、そんな?がりの一つひとつが、きっと彼の熱源の一部を成す貴重なエネルギーだったのだろうと思う。
この身を焦がすような喜びを知ってしまった編集部が005号で次に目指す場所は、まだ決まっていない。時期も財源も未定である。しかし、共に漕ぎ出す乗組員は常時募集している。まずは模索舎さんで本誌の004号、できればバックナンバーも入手し、決意を固めていただきたい。ご連絡、喉から手を出してお待ちしています。

 



Oar 004 国境知らずの音楽雑誌

目次:特集1.イラン―古今の音と声を聞く:クルド・タンブールの音を嗜む イラン伝統音楽修行の旅=北川修/名乗り声〈アッカル〉が山に響く国 パキスタン、バローチスターン地方と民族戦詩=村山和之/ペルシャ詩、ジャズと出会う 国境を越えた融合を生むイラン人歌手ラーナ・ファルファーン=Sevin sunya/命懸けで放つ言葉の弾丸 懸賞金をかけられたアーティスト シャーヒン・ナジャフィ=Sevin sunya/特集2.スーフィズム―未知なる音を訪ねて飛び込む/スーフィズムって、なに? イラン女子が語る、究極の愛のお話/現代インドに息づくスーフィズム 脈々と流るフスロウの精神=高倉裕子/デーラ・ジュメラート=高橋卓治/トルコのフーフィー音楽 よろずエキゾ風物ライターの音楽ガイド=サラーム海上/Oar式世界民族楽器図鑑 No.001 セタール/トラベラーズメモリー=井生明/一本釣り/読者のオススメ!投稿ページ/驚くべき学生だった、彼は マジュヌーン野上との短い年月=麻田豊/アフガニスタン音楽素描=佐藤圭一
[2014年7月/A4/48頁/¥500] 特集=イラン・スーフィズム アフガニスタン音楽素描 発行責任者=並木麻衣/野上郁哉 

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