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なぜ、今、ダンボール村なのか



 JR新宿駅西口の広場にダンボール村があったのを覚えてらっしゃいますか?元々、都庁に向かう通路脇の路上生活者たち(都庁建設に携わった方も多い)が、96年1月に「動く歩道」建設を名目に強制排除されて行き場を失い、緊急避難場所としてそこに集結したのが始まりでした。それから2年間、多い時で300人近い路上生活者が身を寄り添うように暮らしていました。ポストもあって、郵便物も届きましたから、住所のある歴とした村だったんです。

 私は新宿東口改札を出て、丸の内線に向かう通路の脇にある「ベルク」という小さなビア&カフェを共同経営しています。そして、写真家でもあります。という口実で店をちょこちょこ抜け出し、新宿界隈を撮っています。ダンボール村が出現してからは、毎日通いました。なぜ、ダンボール村だったか、については、写真集の後書きに書きましたので、詳しくはそちらをお読みください。もちろん、使命感のようなものもあったのですが、感覚としては、いつもの街歩きの延長のようなところもありました。私は、いつも撮る前から何を撮るかはっきり決めません。決定的瞬間みたいなものも狙いません。誘われるままに歩いて、誘われるままに撮る感じです。いえ、撮らせてもらう感じ。それはダンボール村にお邪魔している時も変わりませんでした。

 なぜ、今、ダンボール村なのか、というご質問をよく受けます。撮影当時から一冊にまとめたい気持ちはありましたが、時間ばかりが過ぎ、いつか迫川尚子全集にでもおさめるかーとあきらめていたところ、突然出版社のほうからお話があり、お受けしたというのが本当のところです。ただ、本の解説を書いて下さった稲葉剛さん、彼は支援者として村にかかわり、現在NPO法人自立生活サポートセンターもやいの代表をされていますが、その稲葉さんも、昨年出版された『連続授業 命と絆は守れるか-震災・貧困・自殺からDVまで』(三省堂)の中の「ダンボール村から始まった」という文章で、初めて村のことをお書きになりました。村を撮影する写真家は私以外に何人かいましたが、その中心的人物だった木暮茂夫さんは村の消滅後パタッと写真をやめ、今は新潟でお米づくりをされています。またダンボール村と言うと、若いアーティストたちが住人の許可を得ながら手当たり次第にハウスに絵を描いたことで話題になり、村の消滅後も度々メディアに取り上げられましたが、彼らも村そのもの(住人やその生活)についてあまり発言されていない気がします。へたに触れたくないのではないか。それが、あの場所に一緒にいた私の率直な感想です。原因不明の火事をきっかけに(4名の方が亡くなった)自主撤去という形で村が消えて以来、あの場所に関わった人たちは皆、それぞれに、あの時自分のとった行動は本当にあれでよかったのかとずっと自問自答を繰り返し、答えが出ないまま、でもやれることを精一杯やって、今日まで至っていると思うからです。

 村の消滅の10年後、今度はベルクが新しい家主(JR系列のルミネ)から立ち退きを迫られました。理由は、ファッションビルにするから、の一言でした。それ以上の法的根拠はありません。ただ、JRは手段を選ばない、裁判所はJRの味方と聞きますし、見えないところで何をされるかわからないという恐怖があって、やむを得ずお客様に「こんなことを言われてます、どうしましょう」と相談する形で立ち退き問題を公表しました。それからはご存知のようにメディアが大きく取り上げて下さり、お客様の大ブーイングによってルミネはいったん立ち退きを撤回しました。事情通の方によれば、それだけでも前代未聞なことだそうです。

 今回の騒動は、駅は誰のものなのか?、街は誰のものなのか?という問いを改めて私たちに突きつけました。11.3.11、JRは首都圏の駅を全面的に閉鎖しました。駅周辺は行き場のない人たちであふれました。駅という公共施設ですら、「私有物」として「よそ者」を締め出す。さすがに、ずいぶん経ってからJR社長がそのことで謝罪したそうですけれど、あの日を境に、この国は問い直さなければならないことであふれかえっている気がします。

 私自身、ダンボール村を写真集にするのに15年もかかってしまったことに不甲斐なさを感じながらも、今じゃなきゃ出せなかった、3.11以後だからこそ出す意味があったという思いもあるのです。

迫川尚子(写真家)

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新宿ダンボール村 迫川尚子写真集 1996-1998

[2013年5月/B6変型/232頁/¥2,000+100] 著=迫川尚子 ブックデザイン=戸塚泰雄 (発売元=ディスクユニオン)

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